Garikai Tirikoti

ムビラは、古来、雨乞いや冠婚葬祭などのセレモニーにおいて演奏されてきた。しかし最近では、「ファンクション」と呼ばれるスピリットセラピーの際にも使用される。ファンクションとは、ムビラを演奏して精霊を降臨させ、その精霊によって参加者のバッド・スピリッツを浄化する目的で行われるもの。ガリカイ氏のファンクションは、その降霊が顕著で興味深い。

ファンクション前のガリカイ氏と霊媒師の女性。
少し緊張気味。

●第1日目

ガリカイ氏のファンクションは3日間続く。第1日目の昼、家族6人が庭でムビラを演奏することから始まる。家の中には、親戚や友人など参加者からの神への供物が所狭しと並べられている。供物は主に米やとうもろこし粉などの食べ物で、中には神へのいけにえとなる鶏が白目を剥いていたりする。横では、後にスピリットドクターとなる女性が、緊張気味の面持ちで精神を集中させている。スピリットドクターとは、ムビラ演奏を聴いてスピリットが降りて他のスピリットと交霊する人物で、霊媒師のような役割を務める。しばらくして、儀式の始まりの呪文のようなものが家族によって唱えられる。その節々にインディアンの奇声のような叫びを発する。

外に出ると、集まった老若男女がムビラの演奏にあわせて踊っている。外気はかなり寒いのだが、よく見ると全員靴を履いていない。このように大地に足を弾ませて踊るのはアフリカでよく見られる光景である。陽が沈むと、セブン・デイズと呼ばれるどぶろくが参加者に振る舞われる。これは、マポコという雑穀をすりつぶして水を加え、発酵させて7日間寝かせて醸造されるのでこう呼ばれ、ジンバブエでの儀式には欠かせない酒だ。

ムビラの演奏は間断なく続く。夜が更ける頃、参加者の中にトランス状態になる人が現れる。鳥や動物の鳴き声のような奇妙な声を発する者や、痙攣を起こして身体を震わせる者もおり、周囲の人々はその人々を気遣いながらもさらに精神が高揚させるため、布をかけたり水を飲ませたりする。途中、ムビラがトーンダウンしていき、代わって説教師が登場して、ショナ語で訓示を始める場面もある。再びムビラ演奏が始まり、それは明け方まで続く。

 

3日3晩の間、参加しているプレイヤーが交代しながら演奏を続ける

●第2日目

朝、ムビラの演奏が一時休止となる。庭では、飼っているヤギの中から1頭が連れ出されつながれた。これから神に捧げられて生け贄となるヤギである。しばらくのち、大人3人と子ども3人が家の裏にヤギを連れて行く。すでに事態を察して暴れるヤギを仰向けにし、後ろ足を子どもたちに握らせて固定させ、前足は大人が1人で抑える。執刀する役目の男が包丁を取り出し、鳴きわめくヤギの首に当てる。徐々に刃が首に入ると血がどくどくと流れ出し、ヤギは断末魔の叫び声をあげる。声帯に刃がかかると叫び声が切り落とされ、やがて首も落ちる。ヤギはまだ四肢をばたばたさせており、あたり一面朱色の血の海になっている。出血多量で次第に心臓の鼓動が緩やかになり、ゆっくりと息絶えてゆくのがわかる。足を押さえている子どもたちに目をやると、声も立てずに頬を涙でぬらして泣いていた。

しばらくして、肛門から刃を入れて皮を剥がしにかかる。きれいに皮を剥がされたピンク色の生身が湯気を立てる。そして解体が始まり、内蔵と分けられてヤギが肉の断片となっていくのは時間はかからない。慣れた手つきで手際よく解体が進む。

このヤギは、このあと参加者の昼食に供された。
さらに夜までダンスとムビラの演奏が続く。

 

生贄にされた山羊

●第3日目

朝、庭ではムビラが続き、参加者たちは庭の中央にある木の周りに輪になって座っている。部屋の中では霊媒師の女性がアラブの衣装を身に着けて精神集中していた。女性の祖先はアラブからやってきており、彼女の3代前の祖先のスピリットが降りて交霊をするのである。まもなく霊媒師の女性が庭に出てきて、お椀に入った聖水を持った男も現れる。その時点で女性はすでに降霊しており、普段と様子が違う。大きなコップに生卵をたくさん割り入れてそのまま飲み干し、普段は吸わないタバコやダハ(ジンバブエの儀式で使用される、タバコのようなもの。吸うと身体や精神がふわりと浮くような作用がある)を、右手にタバコ、左手にダハを持ってひっきりなしに吸い続ける。そのうち、参加者の輪の中から、心の中にバッドスピリットを持っている人間をおもむろに指差し、聖水をかけるように指示する。男は最初、様子を見るように額に聖水をはじきかける。目を覗き込み、まだバッドスピリットが出て行かないとわかると再度繰り返す。その程度で終わるのは軽いバッドスピリットで、中にはバッドスピリットが激しく抵抗してなかなか効かない人もいる。そういう手強いスピリットを持った人は、輪の真ん中に引きずり出され、さらに大量の聖水を掛けられる。しまいにはバケツに聖水を持ってこさせ、うずくまった頭の上から叩きつけるように聖水をぶちまける。バッドスピリットが浄化される瞬間、気絶しそうな叫び声をあげてびくびくっと体が震えていた。除霊に成功すると、彼女は別の人のバッドスピリットを見つけて指差す。ガリカイ氏は霊媒師の後ろでムビラを演奏し続けている。

昼食休憩をはさんで除霊はまだ続く。聖水をかけていた男が「みなの者、迷いごとのある者はスピリットドクターが解決してくれる」と言うと、悩み事がある人が次々と霊媒師の女性に歩み寄り、相談を打ち明ける。女性に降りているスピリットが解決のヒントとなるキーワードを発し、男がそれをわかりやすく相談者に伝えているらしい。

相談事が終わった人間から帰り支度を始め、長かったファンクションは終わりを告げてゆく。最後はガリカイ氏を中心としたムビラの大合奏が、参加者の人生をたたえる応援歌のように響き渡る。陽の光が大地を照りつけ、参加者はガリカイ氏と霊媒師に感謝の意を示して帰路に着いていった。

 


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